イノベーションを成功させる鍵、すなわち経営者が注意しなければならないのは、イノベーションの診断を定期的に行って何が重要なのかを正確に把握しておくことだ。イノベーションは、広く浅く取り組んでいては、なかなか成功に結びつかない。時間も資源も限られたなかで結果を出すには、重要な部分に的を絞つた取り組みが必要になる。

自社の状態を診断するしっかりした方法がなければ、どこからイノベーションに手をつければいいのかもわからない。イノベーション・プロセスは相互に絡み合っているため、詳しい診断法を使わないと症状と原因の区別は難しい。また定期的に行うことも重要である。状態を常にチェックしておかないと、組織は現状に甘んじてしまうからだ。

イノベーションに関する基本的な質問に対して二つの企業が寄せた回答だ。両社のまったく異なる回答には、イノベーションについてのさまざまな考え方が表れている。B社は、定期的なチェックを行っていないため、自社の欠点が見えていない。それどころか、イノベーションの評価は不可能とまで考えている。それでも、自社の行動は正しいと信じて、イノベーション計画に前向きに取り組みつづけている。

イノベーションに関するアドバイスは世にあふれている。だが、すべてが役に立つとはかぎらない。イノベーションの最重要ポイントはごく少数であり、経営陣が目を向けるべきなのは、まさにそこである。イノベーションがすばらしい成果を生み出している企業では、経営陣が次に挙げるルールを確実に実行して、成功に結びつけている。我々は、これを「七つのイノベーション・ルール」と名づけた。

●イノベーションの戦略とポートフォリオを決定する際に、強力なリーダーシツプを発揮する。組織のトップが明確な指示を与えれば、それは組織全体に行き渡る。そしてイノベーション活動そのものだけでなく、それを促進する行動に対しても、モチベーション、支援、報奨を与えることになる。

●イノベーションを会社の基本精神に組み込む。イノベーションは、特別なときだけ引っ張り出してくるものではない。日々の業務の一部にすべきである。

●イノベーションの規模とタイプを経営戦略に合わせる。イノベーションが常に成功の鍵になるとはかぎらない。戦略の成功のために、どのようなイノベーションがどの程度必要なのか見極めなければならない。イノベーションは大きければいいというものではない。

●創造性と価値獲得のバランスをうまくコントロールする。企業にはこの両方の力が必要だ。たとえば、商品化と販売を経て利益に転換できない創造性は、面白さはあるが後が続かない。一方、創造性をともなわない利益は短命に終わってしまう。

●組織内の抵抗勢力を抑える。イノベーションには変化がともなう。だが変化が起きると、組織内の抵抗勢力が慣例や企業文化の規範を持ち出して、変化を阻害しようとする。

●社内外にイノベーションのネットワークを構築する。イノベーションの土台になるのは、会社内外に張り巡らされた、人や知識のネットワークである。成功企業は、社内の資源と、資本主義経済全体の広大な資源の一部とを、非常にうまく融合させている。

●イノベーションに適切な評価指標と報奨制度を設ける。人はポジティブな刺激にもネガティブな刺激にも反応する。これは企業のイノベーションについても例外ではない。適切な報奨を与えなければ、求めているイノベーションは達成できない。

これらのイノベーション・ルールは相互に関係しあっている。このなかの一つや二つ達成したところで、正しい方向への第一歩にはなっても、組織を成功に導くことにはならない。ではここから、この七つのルールをさらに細かく見ていこう。