イノベーション(innovation)は、一般に「技術本新」と訳されることが多
い。しかしながら、技術革新とは正確には、technological innovation であ
る。イノベーションは「革新」を意味するのであって、技術に限られず、社会や経済といったものも含め、何かしらの変化がもたらされれば、それはイノベーションであるといえる。
イノベーション研究の創始者といえるシュンベーター(Shmopeter,1934)は、イノベーションを「新結合」と定義し、次の5つのイノベーションがあ
りうると説明した。それは、① 財貨商品・サービス、②生産方法、③販路、④原材料・半製品の供給源、⑤独占的地位のそれぞれに関するイノベーションである。このように、イノベーションとは、知識の新結合によって、新しい変化がもたらされれば良いのであって、必ずしも新技術に依拠する必要はない。
一般に、イノベーションといえば技術革新と訳されるようになったのは、それまでの経緯として、従来、経済や社会に何かの新しい変革がもたらされるきっかけの多くは、新技術の登場であったためである。そのため、イノベーションは技術革新と同義であると解釈されるに至ったのである。従来のイノベーション研究でも、イノベーションは新技術の登場に依拠するものとして扱われた分析が数多い。
まずは、既存の研究を基礎として、イノベーションに関する議論を整理しよう。イノベーションに関する企業戦略を考える上では、その前提として、イノベーションが創出される過程(イノベーションプロセスモデル)を理解しておく必要がある。そこで、以下では、イノベーションプロセスの基本モデルを提示する。
イノベーションが創出されるプロセスを普遍化したモデルがイノベーショ
ンプロセスモデルである。最も基本となるイノベーションプロセスモデルは、リニアモデルである。リニアモデルとは、基礎研究→製品開発→実用化投資→利益分配という直線的な技術革新モデルである。このモデルを前提にすれば、原則として基礎研究における新しい発見に基づき製品開発がなされることになる。後述の基礎と応用研究の間に存在するとされる「死の谷」の概念も、このイノベーションプロセスモデルを前提としている。リニアモデルでは、基礎研究が出発点となるため、イノベーションにおける基礎研究の重要性を示すものである。
これに対して、日本企業のイノベーションモデルの特徴として、ゴモリー
(1988)は、日本では、短期間で次々と製品を開発する点にイノベーショ
ンプロセスの特徴があると指摘した。すなわち、基礎研究ではなく、日本企業・は、欧米企業に比べて応用研究に重点が置かれているというものである。
このモデルは「ショートサイクルモデルJと呼ばれており、日本企業の競争
力の源泉とされた。
これらのモデルと異なり、リニアモデルと逆のアプローチからのイノベー
ションプロセスモデルが提示されている。プランスコム( 1992) は、単純に漸進的な技術的改善のみでは、企業の利益率は徐々に減少するため、ショートサイクルモデルは、日本企業の競争力を必ずしも説明していないと批判した。技術開発には仮想的市場(virtual markets )が重要であり、仮想的市場を新技術により出現させることが重要であるとする。さらに、児玉(1991) は、潜在的な需要を重視し、それを技術的な繰越まで翻訳する過程を重視して、デマンド・アーティキュレーション(需要表現)という言葉を提唱した。
「アーティキュレーション」という言葉には、「分解」と「統合」という、2つの意味を包含している。実際の製品開発においては、需要を「分解」して明確化し、技術開発成果を「統合する」という2つプロセスが必要であると考えられ、需要表現とは「潜在需要を製品概念として、統合化し、この概念を個々の要素技術の開発項目へ、分解するという、2つの技術的活動の動学的「相互」 作用」と定義されることになる。
